愛人契約しない?と、背中をほぐしてくれているマッサージ嬢のサオリさんに持ちかけた。
「それは専属のマッサージ嬢になれ、と言うこと?」
そう言ってサオリさんは鼻で笑った。ただ、あながち冗談でもない。私はサオリさんのマッサージなしでは生きられない体になっている。それくらい彼女のマッサージは40年間歩んできたマッサージされ人生の中で、最もマイボディにフィットするものだった。
マッサージはもちろん癒し効果もあるが、基本的には医療行為だ。私が毎週サオリさんからマッサージを受けていることについては、妻は何も言わない。例えば、喘息持ちの妻が週一で通っているかかりつけの内科医が、キアヌリーブス似のイケメンだったとして、私は妻に嫉妬するだろうか?いや、しない。それは医療行為だからだ。
だから、これは浮気ではない。妻がかかりつけの内科医を持っているように、私が専属マッサージ師としてサオリさんと愛人契約することに何の弊害があろうか。
「愛人契約って、マッサージ以外にもいろいろやらなきゃいけないんでしょ?私、マッサージ以外は何もできないよ」
愛人
と、サオリさんは凝り固まった私の腰をヒジでゴリゴリしながら冗談っぽく言ってくる。でも、私はそれでいいのだ。1週間に1度のこの1時間程度の施術こそが私の安住の地であり、そこにはサオリさんがいなくてはならない。私はきっと、サオリさんがしてくれるマッサージではなくて、マッサージをしてくれるサオリさんのことが好きになってしまっているのだ。
「月に1000万くらいくれたら愛人契約考えてもいいけどねー」
サオリさんは意地悪っぽく答えた。ハナから相手にしてもらえていないことは明らかだ。だが、こう言う冗談が通じる相手との会話も憩いのひと時なのだ。
こうして、ひと時の愛人関係を終えて、家に帰って妻と食事をしていると、妻の方から「通院なんだけど、来週から週2回になるから」と告げられた。
私の妻もキアヌリーブス似の内科医から触診されながら、同じようなことを考えているのかも知れないな、と想像を巡らしつつ、サオリさんとのマッサージも週2回にしてもらおうかな、と思った。
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